最近、70年代の日本映画がマイブームで、
「仁義なき戦い」シリーズとか梶芽衣子の「修羅雪姫」や「曾根崎心中」やらなどを観ては
昨今の癒やしとか何気ない日常みたいなものと真逆なストレートな鮮烈さに
新鮮な刺激を受けたりしているわけですが、
そんな流れで今回、DVDを購入したのが「哀しみのベラドンナ」。
1973年に劇場公開された虫プロ制作のアニメーション映画で、
「千夜一夜物語」「クレオパトラ」と続いた成人向けアニメシリーズの第3作目。
ジュール・ミシュレの「魔女」という小説が原作で、
中世フランスの農村を舞台に、愛する夫、ジャンとの生活のために自らの心と肉体を悪魔に売った女性、
ジャンヌの哀しい物語を描く。
製作に2年をかけたという意欲作ですが、
あまりにアート性が高かったためか興行的には大失敗だったようです。
作画は深井国で、手塚治虫は参加していない。
で、内容ですが、いまどきのアニメとはかなり趣を異にしていて
まず、絵があまり動かない。いや、動かないというのは語弊がありますが、
ストーリーに則しては絵が動かない。
ストーリーは横や縦にパンしていく静止画とナレーションによって進行し
絵が動くのは、心象風景とかエロチックな幻想イメージというような場面。
抽象的でサイケデリックなアニメーションに
当時のサイケロックが重なる感じで
イメージとしては、ミュージッククリップを見ている感じに近いかもしれない。
イメージは、シンプルなモノクロの線画だったり、
マチスやシャガールのような色鮮やかな水彩画だったり
ナンセンスなアニメーションだったり(この辺はちょっと虫プロっぽい)、
いろいろなイメージが多重的に現れては、デフォルメして新しいイメージにつながっていく。
静謐な世界と官能的なイメージの渦巻くシークエンスが繰り返され
ボーっと観てると結構はまる感じでした。
かなり露骨なエロチック表現もあるんだけど
グラフィックもシャープで、どの画面をとってみても
1枚のアートとして完成されてる感じで、
エッチとかエロいというよりもどちらかというとおしゃれ。
今みても全く古くささは感じないし(音楽以外は)、
むしろ絵は今風といってもいいかもしれない。
そして、そのイメージの核となっているのが
この映画の美術・作画を担当している深井国。
この人の描く繊細な線も色彩も、すごくいいです。
なんといっても主人公であるジャンヌがいい。
はかなげでエロチックで、その絵が動くという
そのこと自体がこの作品の魅力のすべてといっても過言ではありません。
彼の絵が好みなら、見て損はないのでは。
ちなみに深井さんは、装丁とかの仕事が多く
見れば、ああこの人かと思う程度に知ってはいたのですが
この作品ではじめてちゃんと知りました
それほどメジャーではなく画集とかも出ていないようで残念です。
もっと、評価されていい人だと思います。
「哀しみのベラドンナ」DVD 2,520円
※掲載している画像は、虫プロが複製画を販売している原画イラスト。
http://www.mushi-pro.co.jp/belladonna/
(N)